コロナウィルスと独裁者
どのように独裁者たちはウイルスと戦うか ー否定、消去、抑圧
(3.31/Spiegel)
権威主義的な国家では、コロナウィルスの問題について批判的な者は、刑務所に送られる。そうした国家は国民にウィルスについて情報を提供するのではなく、言論の自由を制限してしまう。
タイの芸術家である Danai Ussamaは3月中旬にバルセロナからバンコクに帰った。その際、空港でコロナ検査がなかったのを不思議に思った。彼は3月19日にフェイスブックにそれについてコメントを書いた。すると1週間後に彼はプーケット島でタイ警察に逮捕された。空港の管理者が彼を誤った情報で国民にパニックを引き起こそうとしたと告発したからだ。彼の投稿はあたかもバンコクの空港がきちんと検査をしていないかのように聞こえると訴えられたのである。もし彼が有罪となれば、最高5年の禁固刑に処される。
東南アジアであれ、ロシアであれ、トルコであれ、権威主義的な国家は既にコロナ騒ぎの以前から言論の自由を制限してきたが、現状は事態をより厳しいものにしている。いくつかの国では、一連のコロナ危機の中で、言論の自由の大幅な制限や人権の侵害が生じ、コロナウィルスから守るべき非常事態法が、抑圧に悪用されている。
ハンガリーの首相であるビクトル•オルバンはヨーロッパのまっただ中で擬似的な独裁制を作り出し、ハンガリーの議会からコロナウィルスの拡大に対する包括的な特別全権を与えられた。
軍が主導しているタイでは、1524人の感染者が報告されているが、批判する人間を抑圧することで知られている。プラヤット政権はコロナ危機の中で権力を拡大した。人権団体 Human Rights Watch によれば、医療制度の内部告発者や批判的なジャーナリストは、コロナウィルスについての当局の回答に対して批判などすれば、脅迫を受ける。また、医療従事者が、病院で物資が足りないなどと不満を述べると、当局は解雇や、免許の剥奪をすると脅迫されている。
隣国カンボジアでも、権力者であるフンセンは、政敵を追い詰めるために、コロナ危機を利用している。Human Rights Watch は2020年の一月以来、コロナウィルスの情報を流布した17人が逮捕されたと報告している。逮捕者の中には、フンセンを容赦なく追求して、2017年に解党された Cambodia National Rescue Party (CNRP)の4人の支持者が含まれている。また、Facebook上で自分の学校や地域でコロナウィルス感染が始まっているかもしれないと述べた14歳の少女も、まず逮捕され、公に謝罪させられた。
Human rights Watch のアジアの副ディレクターであるPhil Robertsによれば、カンボジア政府はコロナウイルスについての十分な公の情報キャンペーンをするよりは、オンライン上の批判者を黙らせることに関心があるようだ。また、フンセン政権は自分の政権の評判を気にしている。103人の感染者を報告しているこの国では健康についてのキャンペーンをいまだに実施したことはない。
1418人が報告されているフィリピンでもRodrigo Duterteはコロナウイルス対策に違反した人々に対して強硬な対策を取っている。彼は3ヶ月の緊急事態を宣言したが、恣意的な逮捕を可能にする特権を持っている。何百人もの人々が刑務所に入れられている。何人かは犬用の檻で日中に野ざらしにされたり、満杯の監獄の中で夜を過ごすこととなった。
トルコではコロナ危機は長い間他国の問題であった。イラン、イラク、ギリシャなどの隣国で件数が上昇している間、エルドアンは三月になってもトルコだけはこのウイルスから奇跡のように守られているかのように振る舞っていた。厚生大臣のFahrettin Kocaは市民にこの病気はたかだか2ヶ月で自然消滅してしまうと確約していた。政府寄りのメディアもトルコ人は遺伝子によってこの疫病に免疫があると主張していたのである。
やがてトルコ政府は疫病拡大を無視できなくなった。政府によればおよそ8000人のトルコ人がウイルスに感染し、100人以上がなくなった。不確かなこの数はどう見てももっと高くなりそうである。
それでもトルコ政府は面と向かって問題に向き合おうとしない。普段はどこにでも顔を出すエルドアン大統領はこの危機においてはほとんど姿を見せない。その代わりに見るからにこの状況の中で疲れ果てている厚生大臣を表に出している。さらにトルコは何ヶ月か経済危機に見舞われている。エルドアンはコロナ感染拡大で夏に旅行客が来なければこの経済の下落は加速するであろうことを明らかに心配している。そのために好ましからざるニュースは政府に排除される。既にコロナ危機の前にエルドアンはトルコにおける言論に自由を劇的に制限した。ジャーナリストは何年も前からテロリストとして付け狙われている。エルドアンはこの戦術を継続するだろう。
またロシアでも報道監視局と最高検察庁がネット上の内容の遮断、消去、罰金、将来的には禁固刑という手段で徹底的に締め付けをしている。フェイクニュースの拡散や当局が秩序違反と見なすものは刑事事件の対象となる。ロシア議会は火曜日に刑罰を引き上げた。
そのニュースは短かった。タイトルは:「コロナウイルス感染の疑いのある患者がマダガン地域の病院で亡くなった」というものであった。それが出たのは、ロシア極東の港町で製作されているGoworit Magadanというインターネットサイトである。
そのニュースは何日かネット上にあったが、Tatiana Brajs はそれを消去せねばならなかった。報道監視局が彼女のサイトをフェイクニュースを拡散していると非難したからである。「それは正しくありません。我々は病院と厚生省のソースに基づいて報告しました。」とジャーナリストである彼女は電話で答えた。「我々はその患者がコロナウイルスで死んだと主張したわけではありません。」
しかし当局はそうした細かいことには関心がない。Brajsは「当局は今とても神経質になっています」と述べた。至る所で政府の報道が支配的になっているその地域の唯一独立した彼女のサイトにとって、圧力は一層高まっている。火曜日まで、公にはその地域では一人の感染者もいないとされ、その病院の男性は肺炎で死んだとされている。
コロナウイルス感染者の数が急速に増加しているにもかかわらず、ロシアではその数は長い間目立って低かった。先週半ばのプーチン大統領の演説まで公には一人の死者もいなかった。
不安がただでさえ拡がり、外国から何千にもの死者が毎日報告される時期に、こうした有様は多くの疑惑を生む。例えばコロナ感染で起こりうる肺炎である。なぜモスクワでは統計局によれば前年の同月と比較して37パーセントも肺炎の患者が上昇しているのか。なぜ地域の保健局はそれを否定するのか。
政治学者のWalerij Solowejは既に3月の半ばの政府に批判的なラジオ局とのインタビューで千人以上のコロナウイルス感染死亡者について述べていた。彼が様々な役所の高官から得たとしている情報は「不安は自ずから表れてくる」と言うことである。しかしそのラジオ局はそのインタビューをその間に自分で消去せざるを得なかった。
監視当局はいくつものメディアがコロナウイルスについての間違った情報を公開し、公の秩序と安全を脅かしたと宣言した。フェイクニュース法によれば、50万ルーブル、5700ユーロの罰金が科せられる。 Goworit Magadanに対してすでに裁判の手続きが始まった。
クレムリンでは依然として、コロナウイルスの感染拡大は存在しないのである。